みやこうせい(エッセイスト・バルカン民俗)

 このすぐれたドキュメンタリー映画に接して、ゆくりなくも胸に去来したのは、ぼくが小学校の記念アルバムの卒業生のことば欄に幼い頭で考えた末、記した“人として人らしく人のように”とのフレーズだった。

 映画は淡々と、いわば等身大のスケールと目線でくり広げられる。これまでロシアのソクーロフ監督(2011年度ヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞)の映画作りに何度か関ったが、この映画は有り体に言って、技巧や修飾にかまけず、自然にひしと寄り沿い、生きとし生けるもの、一木一草に至るまで尊とび慈しむ先住民族アイヌの本来の生き方、軌跡をすなおな目と心で追っている。

 主人公の浦川治造さんの明るさ、寛容精神が感慨を呼ぶ。先祖代々、幾多の困難、さん奪者の和人による弾圧、いわれなき差別があったのは周知のこと。浦川さんは悠容迫らぬ挙措で、屈することなく、自らの人生を拓いて来た。

 心に畑を持て、耕やせ、そして、人に与える人間となれ、何というメッセージであろうか。山河は荒れはて、人心は枯れ、見わたすと、道義は地に落ち、うそ寒い雰囲気の、虚構の日本であるが、この映画は、地球の将来に声高ではなく方向をさし示す。

 浦川さんの些か荒削りで真率な魂は、大空のように広やかで、人をひしと抱擁する大地で、相手を昂揚させる火で、すべてを映しては流れ、又戻ってくる水だ。この人の磊落さ、さりげない優しさの原型は、言葉にならない悲しみ苦しみ憤りである。苦難を通り抜けての明るさ、人への愛情に心からうたれた。

 映像に見入っている内に浦川さんそのものが、森羅万象と人をつなぐカムイの姿に見えて来た。そして、何よりも、むごい同化政策で消えつつあるアイヌ文化に思いをいたしたのである。いたずらな感傷ではなく愛の籠った作品だ。

 できるだけ多くの心ある人にこの映画を見て頂きたい。

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